生活保護の話題では、受給者や制度の問題が注目されがちですが、もう一つの「現場」が存在します。
それが、受給者一人ひとりに寄り添い、支援を行うケースワーカーの存在です。
この記事では、ケースワーカーの仕事内容、抱える過重な業務、心の負担、支援の限界などについて、数字と実態をもとに深く掘り下げていきます。
ケースワーカーとは?生活保護制度の最前線
ケースワーカー(CW)とは、生活保護法に基づき、福祉事務所に勤務し、生活保護受給者の支援と管理を担当する公務員または臨時職員のことです。
主な職務内容
- 生活保護の申請受付・調査・審査
- 家庭訪問による生活状況の確認
- 受給後の支給手続きと管理
- 就労指導・自立支援の助言
- 医療・介護・教育・住居支援との連携
つまり、ケースワーカーは「生活全体の伴走者」であり、役所の窓口業務とは異なり、深く長期的な支援が求められる職種です。
1人で何世帯も担当する現実
全国平均:1人あたり約92世帯(2022年度)
年度 | 1人あたりの平均担当世帯数 |
---|---|
2017年度 | 約98世帯 |
2020年度 | 約94世帯 |
2022年度 | 約92世帯 |
厚生労働省が示す「標準」は80世帯とされていますが、実際はそれを大きく上回る負担がのしかかっています。
都市部や人手不足の地域では、120世帯以上を担当しているケースも報告されています。
業務の“重さ”は数では語れない
ケースワーカーが抱える業務には、単なる書類仕事以上の「人と向き合う重み」があります。
① 受給者の命に関わる判断
支給の可否を誤れば「餓死・孤独死」につながる可能性も。軽はずみな対応はできません。
② 精神疾患・障害・依存症との向き合い
うつ病、統合失調症、アルコール依存、ギャンブル依存など、複雑な背景を抱える受給者も多く、専門知識が必要とされる場面も多々あります。
③ クレーム・暴言・感情的対立
「なぜ支給額が減るのか」「家に来るな」「こっちの事情も知らないくせに」といった怒号や恫喝を受けることも。ケースワーカーが精神を病む原因にもなっています。
現場からの悲鳴|実際の声
「1日に何件も訪問があり、1人ひとりに向き合う余裕がありません。訪問先で怒鳴られた後に、別の家では孤独死の後処理…。帰りの電車で泣いたこともあります。」(30代・女性)
「福祉=やりがいというイメージで入庁しましたが、正直こんなに“命と責任”が重いとは思いませんでした。」(20代・男性)
「ケースワーカーが病んで離職した後の引き継ぎも地獄。誰にも相談できず、正義感だけでは続けられません。」(40代・自治体職員)
非正規職員への依存と制度のひずみ
近年、ケースワーカー業務の一部が非正規職員や民間委託に移行しつつあります。
- 知識や経験のない“新人”に現場を任せる
- 契約期間が短く、受給者との信頼構築が難しい
- 待遇が低く、離職率が高い
制度維持のために人手を補う一方で、「支援の質」が落ちるという副作用が生まれています。
国の対応と課題
① ケースワーカーの定数増加(政策)
政府は人員増強の方針を打ち出していますが、自治体によって実行度にバラつきがあります。
② メンタルケア・研修制度の強化
厚労省による「ケースワーカー研修マニュアル」はあるものの、実態に即していないという声も。
カウンセラーを常駐させる自治体はごく一部に限られています。
③ IT化・マイナンバー連携による事務負担の削減
業務効率化を目指すも、現場ではむしろ「システム入力作業が増えた」との意見もあり、逆効果になる場合も。
なぜ支援者を守る視点が必要か
生活保護制度が機能するためには、受給者だけでなく、支援する側の人間=ケースワーカーもまた「守られるべき存在」です。
- 制度を運用する人が疲弊すれば、制度そのものが崩壊する
- 支援者が安心して働ける環境が、受給者の安心にもつながる
- 人間対人間の支援には“時間と余裕”が不可欠
まとめ|ケースワーカーは「影の支え手」
- ケースワーカーは生活保護制度を支える現場の要
- 1人で100世帯近くを担当する過重労働が常態化
- 精神的・身体的に限界を迎える職員も少なくない
- 制度の維持には、支援する側の“ケアと評価”も不可欠
生活保護の支援は、支える側の人間がいてこそ成り立つ。
私たちが制度について語るとき、その背後にいるケースワーカーの存在にも、ぜひ目を向けてほしいと思います。