「水際作戦」とは何か?生活保護申請を拒まれる人々とその実態を追う

「生活保護の申請に行ったら追い返された」
そんな声を耳にしたことはありませんか?

本来、生活保護は困っている人を守る最後のセーフティネット。しかし一部の自治体では、制度の利用を意図的に妨げる「水際作戦」と呼ばれる対応が存在します。

この記事では、水際作戦の実態・問題点・実際の事例・国の対応などを最新データとともに詳しく解説します。

水際作戦とは?

水際作戦(みずぎわさくせん)とは、生活保護を申請しに来た人に対して、役所の窓口で申請書を渡さなかったり、虚偽の説明をして申請そのものを断念させる行為を指します。

本来、生活保護は「申請主義」に基づき、希望者が申請書を提出すれば、原則として受理し、調査・審査する必要があります。

水際作戦の代表的な対応例

  • 「あなたは働けるから保護は受けられません」
  • 「親戚に頼ってください。保護の対象ではありません」
  • 「家がありますよね?売ってから来てください」
  • 「今日は担当者がいません。後日予約してください」
  • 「申請書は決まった用紙しかない」→ 提供しない

これらはすべて違法または違法すれすれの対応であり、申請の妨害とみなされる可能性があります。

水際作戦はなぜ行われるのか?

① 自治体の財政負担を抑えたい

生活保護費のうち、国が約75%、地方自治体が約25%を負担します。受給者が増えれば自治体の支出も増えるため、財政負担を懸念した自治体職員が“忖度的に”申請を阻もうとする場合があります。

② ケースワーカーの人手不足

1人のケースワーカーが100〜120世帯を担当することもあり、負担が重すぎて新規受給者を増やしたくないという心理が働くケースも。

③ 差別意識・制度への誤解

生活保護に対する偏見や差別的感情を職員が持っており、制度を「最後の手段」と位置づけるような主観的判断で“ふるい落とし”をする例も報告されています。

水際作戦による被害事例

① 北九州市餓死事件(2007年)

  • 男性が生活に困窮し、役所に3度も相談
  • 「若くて健康だから働ける」として申請書も渡されず
  • その後、アパートで餓死した状態で発見

この事件は「水際作戦の象徴的事例」として全国に衝撃を与え、その後の制度見直しのきっかけとなりました。

② 札幌市:DV被害者への申請拒否(2018年)

  • 夫の暴力から逃れてきた女性が福祉事務所へ相談
  • 「本当にDVか証明できないなら受けられません」と言われ、申請を拒否
  • 弁護士介入で不当対応と認定 → 後日謝罪

③ 東京:障害者が断られネットで炎上(2021年)

  • 精神障害2級の受給希望者が「自立できる」と一蹴され申請できず
  • 本人がSNSに経緯を投稿し、社会的関心が高まる

生活保護は「申請権」が保障されている

生活保護法第24条は、「保護の申請は、本人または扶養義務者その他の親族が行うことができる」と明記しています。

また、厚生労働省も「申請を拒んではならない」という通達(2020年・生活保護手帳より)を出しています。

つまり、申請すること自体は誰でも可能です。

  • 申請するだけなら収入があってもOK
  • 調査の上で「受給の可否」が判断される
  • 申請書の提出を妨げることは違法行為に該当する可能性も

申請を拒まれたときの対処法

① 「申請書を出させてください」とはっきり伝える

「相談」ではなく「申請」の意思を明確に。拒否された場合は日時・担当者名をメモしておきましょう。

② スマホで録音・記録

役所でのやり取りは、後日の証拠になります(個人用なら合法)。録音アプリを活用しましょう。

③ 弁護士・支援団体に相談

  • 全国生活保護支援法律家ネットワーク
  • 反貧困ネットワーク
  • 地元の法律相談窓口

「同行支援」を行ってくれる団体もあり、一緒に窓口に行ってくれるケースもあります。

国の対応と課題

水際作戦への国の姿勢

厚労省は再三、「申請書を渡さないことは違法」との通達を出しており、研修でもその徹底を図っています。

しかし現場では…

  • ケースワーカーの人員不足は依然深刻(全国平均:1人あたり92世帯 ※2022年度)
  • 自治体により対応の差が大きい
  • 非正規職員が窓口業務を担うケースも増え、知識不足から違法対応に繋がることも

まとめ|「申請する権利」は誰にでもある

  • 水際作戦とは、申請自体を妨げる行政の“拒否対応”
  • 生活保護は申請主義:窓口は拒否してはならない
  • 申請を拒まれたら、記録・相談・証拠を残すことが大切
  • 制度を正しく使うためにも、国民一人ひとりが知識を持つ必要がある

生活保護を申請することは、恥でも迷惑でもありません。
それは「あなたの正当な権利」であり、命をつなぐ大切な選択肢です。

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