働けるのに生活保護?“就労指導”の現実と精神疾患・社会復帰のジレンマ

「働けるのに、なぜ生活保護を受けているの?」
この問いには、表面だけでは見えてこない複雑な事情があります。

この記事では、生活保護の中でも誤解されやすい「働ける人」と就労指導の実態に焦点を当て、精神疾患や社会的孤立といった課題、そして支援の限界までを掘り下げます。

生活保護と“働ける人”の関係

生活保護法では、以下のような原則があります:

  • 「能力の活用原則」: 働ける人は就労を求められる
  • 「自立支援の一環」: 単なる給付ではなく、就労を通じて生活再建を目指す

しかし「働けるかどうか」の線引きは非常にあいまいです。

ケースワーカーが見る“働ける人”とは?

  • 年齢が若い(20代〜50代)
  • 身体障害がない
  • 受給開始時点で就労歴がある

これらに該当すれば「働ける」と判断されやすく、「就労指導」の対象となることが一般的です。

就労指導とは?

就労指導とは、福祉事務所(ケースワーカー)による、受給者に対する「働くための支援」です。

主な内容

  • ハローワークへの定期的な通所
  • 就職活動の記録提出(履歴書・応募企業など)
  • 職業訓練の参加(無料で通えるもの)
  • 就労面談(週1〜月1ペース)

支援である一方、実質的には「就労しなければ減額または打ち切り」という圧力にもなっており、受給者に大きなプレッシャーを与える側面があります。

数字で見る就労支援の現実

厚生労働省「生活保護受給者調査(2022年)」によると:

就労指導対象の人数(全国)約32万人
うち実際に就労している人数約12万人
就労指導の完了(就労確定)率約38%

約6割が「指導されても就労に至っていない」のが現実です。

就労できない“見えない壁”とは

① 精神疾患・発達障害などの診断

うつ病・統合失調症・パニック障害・ASD・ADHDなど、外見では分かりにくい病状により、就労が困難な人も多数います。

② 社会的孤立・引きこもり

長期間の無職・孤独・対人恐怖・社会不安により、外出や面接すら大きなハードルとなるケースもあります。

③ 職場での理解不足

「保護受給中」と知られた瞬間に偏見を持たれる、あるいは“自己責任論”で追い詰められることも。

④ 高齢・体力低下

60歳以上の単身者が就労指導を受けることもあり、「アルバイトの選考にすら通らない」といった現実もあります。

“働けるはず”という社会の視線がプレッシャーに

「毎月ハローワークに行って履歴書を出せと言われますが、面接に行っても“長く働いてない人は無理です”と門前払い。家に帰ってまた自分を責めます。」(50代・男性)

「うつ病で通院しているのに“バイトはできるでしょ”と責められました。薬を飲みながら生活をつなぐだけで精一杯です。」(30代・女性)

「働いて当たり前」と決めつけることが、心を壊す二次被害につながることもあるのです。

就労支援の限界と改善への提案

① 個別支援の質を高める

「週に何社応募したか」ではなく、「なぜ応募できなかったのか」まで含めた個別対応が求められます。

② 精神疾患への理解と連携

就労支援員・精神科医・カウンセラー・支援NPOが連携することで、より現実的な復職支援が可能になります。

③ 就労“以外”の社会参加も評価する

ボランティア・家事・通院・交流など、社会とのつながりを持つだけでも前進と考える視点が重要です。

利用できる就労支援制度

制度内容対象
就労自立給付金生活保護から就職した場合に支給される一時金(最大10万円)就職して保護廃止になる人
職業訓練受講給付金職業訓練期間中に月10万円+交通費が支給雇用保険を受けられない人
地域若者サポートステーション15〜49歳の無業者に就労相談・支援全国に177カ所(厚労省管轄)

まとめ|“働ける”かどうかは、数字では測れない

  • 生活保護では、就労できる人に「就労指導」が行われる
  • 精神疾患・孤立・社会不安など“見えない障壁”が多数ある
  • 6割以上が、指導されても就労できていない
  • 一律の指導ではなく、個別支援と社会的理解が必要

「働けるのに保護を受けるなんてずるい」――そんな言葉の裏には、見落とされがちな事情があるのです。
誰もが安心して社会と関われるために、“支援する側”の視点もまた変わる必要があります。

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